連載◎第21回手前味噌。2010年02月23日更新

「鉄子」の旅。

春からのカフェ再オープンの準備のため、この時期、東京へ出かける機会が多くなるのですが、そのたびに、軽井沢ならではのある「特殊な事情」を痛感します。
それは、新幹線に乗らなければ山を下りられないということ!(車やバスを除いて、の話です。)
高崎を出る信越本線は、碓氷峠のふもとの横川で折り返してしまい、東京と軽井沢を結ぶ在来線というものが存在しないのです。
長野新幹線が開通する前までは、上野と長野を結ぶ在来線特急「あさま」があって、小さい頃は私も家族と一緒にこの特急に乗って軽井沢に来ていました。
この「あさま」名物が、横川駅で買う駅弁「峠の釜めし」。その先の峠越えのために、列車は横川駅で3分ほど停車。その隙に乗客は、窓越しに売り子のおばちゃんから買ったり、ホームの売り場に駆け込んだりしました。子どもの頃の私は、「今日は私が買う係ね!」と前々から宣言しておきながら、いざ横川が近づいて来るとどきどきそわそわして、出入口付近でお金を握りしめていたのを憶えています。車掌さんも少しくらいの出発の遅れは覚悟しているようなところもあって、今思えばのどかな光景でした。
くねくね続く峠の線路、無事に買い求めたお弁当を、トンネルの轟音のなかで開くのがなにより楽しみで、あぁ満足満足、、と食べ終えた頃に、窓の向こうに浅間山が見え始め、ちょうどよく列車は軽井沢駅に到着するのでした。
長野オリンピックを機に新幹線が登場し、同時に特急は廃止。在来線は横川~軽井沢間でぶつりと断絶。今では「新幹線で東京からわずか70分」という早さと距離を売りにしている軽井沢ですが、駅弁を開く暇さえないような「近さ」は逆になんだか物足りなく、何より上京のたびに新幹線代金を払うのは、旅行ではない身の懐には大変イタいものです。

ダルマ弁当

 

そこで、私たちが近頃よく利用するのが、群馬県側の嬬恋から高崎に出る在来線「吾妻線」を使うルート。北軽井沢の場合、軽井沢駅に出るのも、吾妻線沿いの駅に出るのも、距離はほとんど変わらないのです。
嬬恋~渋川~高崎を結ぶ吾妻線は、2~3両編成の電車が1時間に1~2本、扉は手動で開け閉め、半数以上の駅が無人駅という、"これぞローカル線"な情緒がたっぷり。通学の学生以外、乗客はほとんどおらず、(これで運営は大丈夫なのかという不安が頭を掠めますが、)のんびり車窓からの景色を眺める急がない道行きにはお薦めです。
嬬恋側の始発駅にもなる「万座・鹿沢口駅」は、嬬恋村の玄関口で、夏には登山客、冬にはスキー客の姿もちらほら。その先、草津温泉への旅行客が通年乗り降りする「長野原草津口駅」。そこからは、これまでなら吾妻川に沿ってせり出す岩壁などの渓谷美や長閑な山里の風景を味わう区間....と言えたのですが、今は、件の八ツ場ダム建設のための人工的な掘削・工事現場が見られます。(高い橋梁の工事など、昔のアニメに出て来る未来都市を造っているかのようで、これはこれで珍しい光景でもあるのですが。)緩やかに山を下りながら、四万温泉の入口となる「中之条駅」、「小野上温泉駅」などを過ぎると(こう見ると吾妻線沿いには温泉地が多いですね、)、関東平野の端っこの平地に入り、左手に群馬の名峰・赤城山が見えて来ます。やがて「渋川駅」で水上方面からの列車と合流し、前橋、高崎方面へ。約1時間半ほどの列車旅。(ちなみに高崎から先、東京へは、高崎線や湘南新宿ラインを利用して1時間半。片道計3時間強の"上京"となります。)

便利な車での移動がメインになりがちな現代の地方暮らしですが、あらためて身の回りのローカル線に目を向けてみると、新鮮な発見があるかもしれません。(軽井沢の場合、長野へ向かう「しなの鉄道」も、沿線の見どころが盛り沢山、たまに小諸や上田まで使っています。)
 ローカル線の旅を楽しむコツは、普段の時間の感覚を2倍速くらいに緩めてみること。昔懐かしい警察の標語『そんなに急いでどこへ行く』ではないけれど、時間さえ気にならなければ、自分自身は何も考えずぼうっとしている間に目的地まで運んでくれる列車ほど、楽チンなものはありません。車窓からの景色も、車通りとはひと味違った町の「ウラ側」的眺めに出会えるのも愉快なところ。

駅ホーム

 

信州・上州にもちらほら桜の便りが聞こえ始め、むずむずと旅気分がわき上がって来るこの頃。
この春は、「鉄子」を気取ってあちこち出かけてみようと思います。

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