連載◎第16回火のある暮らし、再び。2009年11月17日更新

冬の隣人

 新しい年が始まり、標高1200m近い山あいの村はすっぽりと雪に覆われています。

山

 雪の少なかった昨冬に較べて、この冬は早くから降雪量が多く、ミルフィーユのように少しずつ層を厚くしながら、今では30〜40cmほどの完全な根雪となりました。これで春まで土の地面を見るのはお預けです。
 この時期、別荘を利用する人はほとんどいませんし、村の家々もひっそりと静まり返っています。みんなどこかに消えてしまったのかと思うほど人の気配はなく、たまにスキー板を乗せた車が行き交うくらい。

東京から村へ移住した当初は、この冬の静けさに慣れず人恋しく思ったものでした。今でも寂しくないといえば嘘になりますが、でもどこに行っても音やざわめきが溢れている現代の暮らしで、まったくの静寂に包まれる時間というのは逆にとても貴重なことかもしれません。

 日中でも零度に達しない厳しい寒さに、ついつい家の中に引きこもりがちですが、前日までの雪がやみ、ひさしぶりの青空が広がる朝、思い切って外へと出かけてみました。すると森の小径を横切るように何ものかの足跡が点々と。さらに一面の雪野原と化した畑の上にも、あちらからこちらへ、こちらから向こうへ、なかには途中でぐるぐると輪を描いたり、何があったのか突然方向転換をしていたり、と、無数の動物たちの足跡。

動物の足跡

 ケンケンパをするような三角が連続しているのはノウサギ。小さい矢印マークのように見えるのはキジ。だいぶ大きめで丸っこくぼてぼてっとしているのはタヌキかイノシシでしょうか? 我が家の常連のノラ猫たちもせっせとあちこち行き来している様子。
そう、"人っ子ひとりいない"と思っていた森でも、動物たちは忙しく活動していたのです。
 日中、姿を確認できるのは、鳥たちやリスなど。その他は、夜行性のためかほとんど遭遇することはできませんが、私たちが寝静まる頃、暗い森の中で、あちらでごそごそ、こちらでぴょんぴょんやっているのかと思うと、自分たちもひとりぼっちじゃないとわかって、なんだか心強い気がしてきます。

 数日前には、玄関先でなにやら音がするなと思い、そっと懐中電灯で照らしてみたらキラリと眼が光りました。一見タヌキのようですが、もっと鼻が長くて、シッポが短くて細い。図鑑で調べたら、どうやらアナグマのようです。タヌキとそっくりでいて、こちらはイタチの仲間。種類も違うそうです。アナグマはそれから数日、餌を求めてやってきましたがその後見えなくなりました。他には、小柄なキツネを見かけることもあります。しっぽがふさふさと豊かで、精悍な顔つきをしていました。
 地元の人たちによれば、明らかに数が減ってきているといわれる野生動物たち。それでも、人の気配の消えたこの時期の森では、明らかに彼らの数のほうが勝っています。(なかにはもっと獰猛なヤツも眠っていたりするのでしょうし...。)

 野生動物と私たち。同じ森の住人といっても、かたや雪に覆われた大地で必死に食べ物を求める者、かたやいくら寒いとはいえ安全な屋根の下でぐっすり眠ることができる者、同じレベルで語るのは彼らに申し訳ない気もするのですが、長い冬に耐え、春を待ちわびる気持ちは一緒。自然環境が厳しければ厳しい分だけ、人と動物とを隔てる壁も薄くなっていくように感じます。

足跡

 この雪が融けるまであと2ヶ月ほど。がんばって乗り切ろうぜ、隣人たちよ!

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