連載◎第5回「市」好き、なもので。2009年5月13日更新

美術館

 「市」や「マーケット」と名のつくものにめっぽう弱い。
蚤の市、朝市、骨董市、クラフトフェア、古本市、手づくり市……。
 特に旅先なんかだと、その土地ならではの「市」があると聞いたら、ふらふらと覗いてみずにはいられない。
 むしろ「市」の立つ日に合わせて、旅の予定を組んでしまうくらい。

 南フランスの地方都市で留学生活をしていた頃、借りていたアパートの隣の広場に、週に一度「朝市」が立った。
近郊の村々で穫れた野菜や果物が、テントの下に豪快に並ぶ。
見たこともないような大きなチーズのかたまり、色とりどりで種類豊富なオリーブの実のオイル漬け、甘い匂いを漂わせながらその場で焼いてくれるクレープ。
早朝6時くらいから響く威勢のよいお兄さんたちの歌声や口笛は、夜更かしした翌朝には少々辛いこともあったけれど、寝ぼけ眼でふらふらと出かけていけば、あっちもこっちも気になるものばかり。
一周して来る頃には、両手いっぱいに紙袋を抱えるはめに。
言葉の壁の前にちょっぴり後ろ向きになっていた当時、市場の人たちが見せる笑顔や、その場で交わす何気ないやりとりも嬉しかった。
今でもあの街のことを思い出すたび、朝の光を浴びて瑞々しく輝く野菜たちの姿と、市場の人たちの人懐っこい笑顔が真っ先に浮かんでくる。

美術館入り口

 今年もまもなく。毎年5月の最終週末に行なわれる「クラフトフェアまつもと」。
全国各地から「ものをつくる人」(工芸作家)が集まり、広い芝生の公園いっぱいにテントが並ぶ。
1985年から始まったイベントは、年々規模が大きくなって、今ではお客さんも日本全国からやって来ているようだ。
初めて訪ねた4年程前、なにげなく覗いた陶器のブースでちょっと好みの器を見つけた。
作品について話を聞いてみようと出展者を探すと、テントの奥で若い男の人が仏頂面で座っている。
あれ、話しかけにくそうだなと思いつつ、思い切って声をかけたら、男の人は急にはにかんだような表情になり、モジモジしながら口を開いてくれた。
聞けば、まだ陶芸の専門学校を出たばかりで、人前に作品を出すのも初めてのこと。お客さんにどう声をかけてよいかもわからなくて……と困ったように頭を掻いた。
あらためて器を見ると、一見ぼってりと無骨に見える形のなかに、繊細な貫入(ひび)が細かに加えられていて、その対比がまるで彼の人柄そのもののようだった。
これを下さい、と伝えると、それまでより少し大きな声で「ありがとうございます、がんばります」という答えが返ってきた。
その時の笑顔は、5月の松本の空と同じくらいキラキラしていた。

「市」の魅力は、単にモノのやりとりだけでは終わらない、そのモノの裏側にある「キモチ」の部分が直接受け渡しされることにあると思う。
つくり手のキモチ、つかいたいと思う側のキモチが、手と手の中で交換される。
新聞紙で無造作にくるまれたモノたちは、時に、デパートの高級な包装紙とリボンに覆われた物以上に、胸をドキドキ高鳴らせる。
「市」好きの想いが高じて、自分たちの店でも小さなマルシェを毎年開いている。
今年は6月13、14日の週末。軽井沢近郊に暮らす「つくり手」の仲間たちが、とっておきのドキドキをこしらえて、緑の庭に遊びに来てくれる。
今年もたくさんのキモチと笑顔が交換される場になれたらいいと思う。

ペインティング

●第3回 地蔵堂マルシェ

日時:6月13日(土)14日(日)10:00~16:00
場所:本とコーヒー麦小舎 庭と店内
※詳細はHPにてお知らせしていきます

http://www.mugikoya.com/

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