連載◎第4回ある日、森のなか。2009年5月13日更新

美術館

 「around Forest」というこの連載タイトルにぴったりのある展示が始まったと聞き、御代田町の「メルシャン軽井沢美術館」を訪ねました。
 常設作品を持たず、毎年、春と夏の2回、様々な切り口でアートに触れる楽しさを提案してくれるメルシャン美術館。2009年春の企画展は、題して「もうひとつの森へ ~TAKE ME OUT TO THE WONDER FOREST~」。(ほら、気になりませんか!?)

美術館入り口

 回転ドアを抜け館内へと足を進めると、そこはすでに「森の入口」。四角い箱状の展示会場はあえて半透明の薄布で間仕切られ、迷路のように奥へ奥へと誘います。

 ふわふわした気分で歩いて行くと、ひょっこり大きな「鹿」が現れました。その先には大きな角を持ったユニコーンやウサギ、扉の影には、あらシロクマも。それらの動物たちは彫刻家・三沢厚彦さんの作品。樟(くすのき)からノミと木槌で削り出される、中には人間の背丈も超えるような大きなものもある「ANIMALS」。数年前、別の展示で初めて見かけてから、私は、そのちょっぴりとぼけた、でもどっしりとした迫力ある動物たちにすっかり魅き込まれてしまい、この森で再び出会えたことが嬉しくてなりません。思わず、閉館後の誰もいなくなった会場で、自由に動き回る彼らの姿を想像してしまいます(そんなような映画もありましたね)。

 もうひとつ会場で目をひいたのが、大きな壁一面に描かれたペインティング。なんとこの絵、砂糖・卵白・レモンを使って描かれたもの。触れたら崩れてしまう繊細で立体的なラインで、湖に映る森の姿が白一色の世界に描写されています。作者の佐々木愛さんは、この町に滞在しながら約1ヶ月をかけて作品を完成されたのだとか。展示が終わると同時に儚く消えてしまう森の光景。逆を言えば、だからこそこの作品は、より鮮明に人の記憶の中に生き続けるのかもしれません。そう思いながら、しばらくその場所から立ち去ることができませんでした。

ペインティング

 会場にはこのほか、ノルウェー生まれのマイ・ホフスタッド・グネスさんによるアニメーションの上映や、写真家・津田直さんの森をテーマとした写真が展示され、4者4様の手法で「もうひとつの森」の姿が表現されています。空間構成は、大阪を拠点としたクリエイティブユニット「graf」が手がけ、これまでとはひと味違った会場の設えも見どころのひとつです。

 幼い頃、ふとした弾みから町外れの森へとさまよいこんでしまった時に感じた、ひとりぼっちの恐ろしさや、時間が止まったような浮遊感、そして目には見えない大きなものに包まれているという不思議な安心感。大人になるにつれ忘れかけていたおぼろげな「森の記憶」がひたひたと蘇ってくるのを感じながら、静かな余韻とともに美術館を後にしました。

●メルシャン軽井沢美術館HP http://www.mercian.co.jp/musee/

長野県は、全国で東京都に次いで美術館の多い県なのだそうです。ご存知でしたか? 今回は、軽井沢のお隣、御代田町の美術館で開催中のとある展示へ出かけました。
そこで出会ったものは、いくつもの感性が重なり合うアートの魅力と、忘れかけていた(けれども誰の胸の中にもある)あの懐かしい「記憶」でした。

※掲載写真はオープニングレセプション時の撮影によるものです。会期中の通常入館の際の作品撮影はご遠慮ください

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